ファイザーとモデルナのmRNAワクチン接種後の副反応の比較
目次
はじめに
モデルナ社のCOVID-19ワクチン(mRNA-1273)は、本年5月21日に厚生労働省から特例承認され、5月24日から東京と大阪に政府が設置した大規模接種会場で接種が開始されています。
このワクチンは、これまで医療者や高齢者に接種されていたファイザー社のワクチン(BNT162b2)と同様のmRNAワクチンであり、新型コロナウイルス感染症の発症予防についても、ファイザーとほぼ同等の90%以上の効果を持っていると報告されています。
今後の国内でのワクチン接種において、ファイザーと二本柱になると思われるモデルナワクチンですが、多くの方が気にされるのは「ファイザーのワクチンと比べて副反応はどうなのか?」という点でしょう。
モデルナワクチンの添付文書には、国内I/II相試験として日本人150人に接種した際の副反応のデーターが記載されており、当ブログでもファイザーワクチンと比較する形で3月24日付のブログに追記させていただきましたが、それぞれの被験者数が少ないこともあり、単純に副反応ごとのパーセンテージを比較するには、若干心許ないデーターでした。
一方、日本に比べてワクチン接種が先行していたアメリカでは、より大規模な副反応の情報収集が行われており、100万人単位での比較が可能となっています。
今回は、米国医師会誌(JAMA)のオンライン版に4月5日に掲載された、両ワクチンの副反応の比較に関する論文を読み解いてみたいと思います。
原文(英語)や図表は、下のリンクからお読みいただけます
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2778441
V-safeシステムによる安全情報の収集
- 米国疾病対策予防センター(CDC)は、米国におけるコロナワクチン被接種者からの安全情報の収集を迅速に行うため、V-safeシステムを構築した。
- V-safeに自発的に参加した登録者には、ワクチンの初回接種日から最終接種日の12ヶ月後まで、定期的にスマートフォンへのメッセージによってWebベースの健康調査が行われる。
- それぞれのワクチン接種の当日(day0)から一週間後(day7)までにおいては、参加者は事前に設定された局所的または全身的な副反応(例:疼痛、疲労感、頭痛)の有無について回答を促される。
- V-safeではアレルギーに関する情報は収集していないが、自由記載で副反応を報告することは可能である。
- 今回は、2020年12月14日から2021年2月28日までに報告された、day0からday7までの事前に設定された副反応に関するデーターを報告する。
結果
- 2021年2月26日までに、少なくとも4,600万人が1回以上のmRNAワクチンの接種を受けた。
- 3,643,918名が、1回目接種後7日間以内の健康調査に、少なくとも1回以上回答した。
- 1,920,872名が、2回目接種後7日間以内の健康調査に、少なくとも1回以上回答した。
- 殆どの被験者が、局所的な副反応(1回目70.0%、2回目75.2%)と全身的な副反応(1回目50%、2回目69.4%)を報告した。
- 1回目接種後に最も多く報告された副反応は、接種部位の疼痛(67.8%)、疲労感(30.9%)、頭痛(25.9%)、筋肉痛(19.4%)だった。
- 2回目接種後には、疲労感(53.9%)、頭痛(46.7%)、筋肉痛(44.0%)、寒気(31.3%)、発熱(29.5%)、関節痛(25.6%)など、全身的な副反応の頻度がかなり高くなった。
- モデルナワクチンの被接種者は、ファイザーワクチンの被接種者に比べて、特に2回目の接種後に高い頻度で副反応を報告した。
- 65歳未満と65歳以上で年齢を分けても、モデルナワクチンのほうが副反応が起こりやすい傾向は変わらなかった。
- 65歳以上は65歳未満に比べて副反応の頻度が低かったが、2回目接種後に副反応が起こりやすい傾向は変わらなかった。
- いずれのワクチンでも、副反応は接種翌日に最も高い確率で報告されていた。
副反応 | 全体 (3,643,918名) | ファイザー (1,659,724名) | モデルナ (1,984,194名) |
全ての局所的副反応 | 70.0% | 65.4% | 73.9% |
疼痛 | 67.8% | 63.6% | 71.4% |
発赤 | 5.6% | 3.4% | 7.4% |
腫れ | 10.4% | 6.6% | 13.6% |
かゆみ | 5.4% | 3.8% | 6.8% |
全ての全身的副反応 | 50.0% | 48.0% | 51.7% |
疲労感 | 30.9% | 29.1% | 32.5% |
頭痛 | 25.9% | 24.7% | 26.9% |
筋肉痛 | 19.4% | 17.0% | 21.3% |
寒気 | 8.8% | 7.0% | 10.3% |
発熱 | 8.6% | 7.0% | 10.0% |
関節痛 | 8.7% | 7.4% | 9.8% |
嘔気 | 7.6% | 6.9% | 8.1% |
嘔吐 | 0.7% | 0.6% | 0.8% |
下痢 | 5.2% | 5.0% | 5.4% |
腹痛 | 3.0% | 2.8% | 3.2% |
発疹 (接種場所以外) | 1.2% | 1.1% | 1.2% |
副反応 | 全体 (1,920,872名) | ファイザー (971,375名) | モデルナ (949,497名) |
全ての局所的副反応 | 75.2% | 68.6% | 81.9% |
疼痛 | 72.3% | 66.5% | 78.3% |
発赤 | 12.5% | 6.0% | 19.2% |
腫れ | 18.2% | 10.3% | 26.2% |
かゆみ | 11.2% | 6.3% | 16.2% |
全ての全身的副反応 | 69.4% | 64.2% | 74.8% |
疲労感 | 53.9% | 47.8% | 60.0% |
頭痛 | 46.7% | 40.4% | 53.2% |
筋肉痛 | 44.0% | 36.8% | 51.4% |
寒気 | 31.3% | 22.7% | 40.0% |
発熱 | 29.5% | 21.5% | 37.6% |
関節痛 | 25.6% | 19.9% | 31.5% |
嘔気 | 16.6% | 13.1% | 20.2% |
嘔吐 | 1.6% | 1.2% | 2.1% |
下痢 | 7.0% | 6.2% | 7.7% |
腹痛 | 6.1% | 5.0% | 7.3% |
発疹 (接種場所以外) | 1.7% | 1.4% | 2.1% |
論文著者らの見解
- ワクチン接種による副反応は一過性で予測可能なものではあるが、被接種者の接種体験に大きな影響を与える可能性がある。
- 予測される副反応の情報を与えておくことは、副反応が生じた際に被接種者の不安をある程度やわらげるであろう。
- 臨床医は、これらの局所的・全身的な副反応が2回目接種の翌日に最も起こりやすく、短期間で軽快するであろうことを被接種者に説明するべきである。
院長の感想
モデルナワクチンは、ファイザーワクチン同様のmRNAワクチンでありながら、冷蔵庫で30日間の保存が可能で取り扱いがしやすく、今後のワクチン接種数の拡大に大きな役割を果たしてくれそうです。
その有効性については、以前のブログで紹介した臨床試験の成績や、海外での大規模接種後の感染者数の減少を見ても折り紙つきと言えますが、副反応については、どうやらファイザーワクチンよりも若干強い傾向にあるようです。
ワクチン内のmRNAにコードされているのは、いずれも新型コロナウイルスのスパイク蛋白全体であり、2つのワクチンに差はないはずなのですが、あるいはモデルナワクチンのほうが脂質ナノ粒子の相違から細胞内への取り込み効率がよく、多くのスパイク蛋白が体内で合成されるのでしょうか。
モデルナワクチン接種後7日ほどで多くの被接種者に出現すると言われる、「モデルナアーム」と呼ばれる腫れや発赤もこの免疫原性の高さと関連するものでしょうが、日本ではどのくらいの頻度で出現するか、気になるところです。
赤く腫れても「心配ない」 米国で話題の「モデルナ・アーム」(日経ビジネス)
院長は現在、埼玉県や新潟県の医療機関や集団接種会場でコロナウイルスワクチンの接種に携わっていますが、5月末時点では全てファイザーワクチンが使用されています。
しかし、自治体が主催する集団接種や医療機関での個別接種でも、遠からずモデルナワクチンも使用されることになると思われます。
両ワクチンの違いを把握して、接種を受ける方に十分なご説明ができるよう、今後も情報収集に励みたいと考えております。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
6月3日追記
ファイザー社BNT162b2ワクチン(コミナティ筋注)の添付文書が5月31日改定され、冷蔵庫(2-8℃)での30日間の保存が認められました(これまでは5日間でした)。
これで、接種を受け持つ医療機関レベルでの保存性に関しては、ファイザーとモデルナのワクチンに大きな差はなくなりました。