COVID-19に対するモデルナ社のmRNAワクチンの有効性と安全性に関するIII相試験

はじめに

 米国のバイオ企業であるモデルナ社が、アメリカ国立アレルギー感染症研究所(NIAID)、およびアメリカ生物医学先端研究開発局(BARDA)と共同で開発したmRNA-1273ワクチンは、3月5日に厚生労働省に承認申請が行われ、3月末時点では審査中の状況です。承認された場合は、日本最大の医薬品メーカーである武田薬品工業が流通を担当する予定です。
 mRNA-1273ワクチンは、ファイザー社のBNT162b2ワクチンと同様のmRNAワクチンであり、コロナウイルスのスパイクタンパクの遺伝情報をタンパク質の設計図(mRNA)に書き込み、これを細胞が取り込みやすいよう脂質のナノ粒子で包み込んだものです。
 ワクチンが体に接種されると、細胞内のリボゾームというタンパク合成器官でmRNAが読み取られ、体内でスパイクタンパクが期間限定で合成されます。ワクチンによって合成されたスパイクタンパクは、新型コロナウイルに感染しても重症化しないように免疫システムを訓練します。
 2021年3月下旬時点で、アメリカ、カナダ、EU、スイス、イスラエル、シンガポールなど40の国で、薬事承認または緊急使用の許可がなされているモデルナ社のワクチンですが、その効果と安全性はどのようなものでしょうか。各国が承認の参考とした、米国での第3相試験(COVE)の中間解析の報告を読み解いてみたいと思います。
 論文が掲載されたのは、The NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE 誌の2021年2月4日号です。
(オンラインでは2020年12月30日に掲載されました。)

原文(英語)や図表は、下のリンクからお読みいただけます
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2035389

※じっくり目を通すお時間がない方は、重要と思われる箇所を赤文字にしましたので、拾い読みなさってください。

試験デザイン

  • COVE試験は、2020年7月より米国内で行われた、観察者盲検第3相無作為化試験である。
  • COVE試験は現在も進行中だが、初回の中間解析であらかじめ設定した有効性の基準を満たしたため、解析結果を公表する。
  • 米国在住で、
    ①新型コロナウイルスに感染しやすい環境にいる
    ②COVID-19の重症化リスクとなるような安定した基礎疾患(呼吸器疾患、心疾患、糖尿病、肥満など)を有する
    の少なくとも1つを満たし、これまでに新型コロナウイルスの感染歴がない18歳以上の人を被験者として組み入れた。
  • 被験者は、ワクチン群とプラセボ群に1:1で割り付けられ、28日間隔でmRNA-1273ワクチン(100μg)またはプラセボ(生理食塩水)を2回接種された。
  • それぞれの接種から7日間以内の局所的、または全身的な有害事象については、電子デバイスを用いたダイアリーで調査した。
  • 接種から28日以内に被験者から自発的に報告された有害事象、試験から脱落するにいたった有害事象、投与から759日以内の医療を必要とする又は重篤な有害事象についても調査した。
  • 主要評価項目は、開始時点で抗体が陰性であった被験者における、2回目の接種後14日目以降のmRNA-1273のCOVID-19発症予防効果とした。
  • ①38℃以上の発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛、咽頭痛、新規に出現した嗅覚/味覚障害、のうちの2つ以上
    ②新規に出現した呼吸器症候(咳、息切れ、画像又は症状的に明らかな肺炎)
    のいずれかを満たし、少なくとも1回のPCR検査が陽性となることをもってCOVID-19と診断した。
  • 被験者は、毎回の接種前に抗体検査(ワクチンでは陽性にならない抗体)とPCR検査を行われた。
  • 二次評価項目は、臓器不全、ショック、ICUへの入室、死亡のいずれかに該当するような、重症のCOVID-19に対するmRNA-1273の予防効果とした。
  • 1回目接種後のCOVID-19に対するmRNA-1273の予防効果、診断基準には該当しないが何らかの症状を伴ってPCR陽性となった症例におけるmRNA-1273の予防効果も二次評価項目とした。

試験結果

被験者の構成

  • 2020年7月27日から10月23日の期間に、30,420人の被験者がランダム化され、mRNA-1273ワクチンとプラセボの両群に15,210人ずつがわりつけられた。
  • 少なくとも1回の接種を受けた、30,351人(mRNA-1273接種群15,185人、プラセボ群15,166人)が安全性の解析の対象となった。
  • 開始時点で新型コロナウイルス検査が陽性であった被験者や、プロトコル通りに2回の接種を受けなかった被験者を除外した結果、28,208人(mRNA-1273接種群14,134人、プラセボ群14,073人)が有効性の解析の対象となった。
  • データー締め切り日(11月25日)時点で、2回目接種後の経過観察期間の中央値は63日(0-97日)で、62%の被験者には56日以上の経過観察が行われていた。

プラセボ群mRNA-1273群
男性8,062人
(53.1%)
7,923人
(52.2%)
女性7,108人
(46.9%)
7,258人
(47.8%)
平均年齢51.3歳51.4歳
18-64歳
重症化リスクなし
8,886人
(58.6%)
8,888人
(58.5%)
18-64歳
重症化リスクあり
2,535人
(16.7%)
2,530人
(16.7%)
65歳以上3,749人
(24.7%)
3,763人
(24.8%)
白人11,995人
(79.1%)
12,029人
(79.2%)
黒人
アフリカ系
1,527人
(10.1%)
1,563人
(10.3%)
アジア系731人
(4.8%)
651人
(4.3%)
慢性肺疾患744人
(4.9%)
710人
(4.7%)
重症心疾患744人
(4.9%)
752人
(5.0%)
高度肥満1,021人
(6.7%)
1,025人
(6.8%)
糖尿病1,440人
(9.5%)
1,435人
(9.5%)
ランダム化時点での被験者の構成

安全性

接種7日以内の局所的な有害事象

  • 局所的な有害事象は、mRNA-1273接種群でプラセボ群よりも多く認められた(1回目:84.2% vs 19.8%、2回目:88.6% vs 18.8%)
  • 局所的な有害事象の多くは軽症又は中等症であり、2.6-3.5日間持続した。
  • 18-64歳の被験者のほうが、65歳以上の被験者よりも有害事象の頻度が高かった。

副反応の種類軽症・中等症(%)重症(%)
痛み84.14.1
発赤6.62.0
腫脹10.51.7
腋窩リンパ節の腫脹13.70.5
mRNA-1273接種(2回目)後の局所的な有害事象

接種7日以内の全身的な有害事象

  • 全身的な有害事象は、mRNA-1273接種群でプラセボ群よりも多く認められた(1回目:54.9% vs 42.2%、2回目:79.4% vs 36.5%)
  • mRNA-1273接種群では、2回目接種後で1回目接種後よりも、何らかの中等症(16.5%→18.5%)または重症(2.9%→15.8%)の有害事象が生じる割合が高くなった。
  • mRNA-1273接種群での全身的な有害事象の持続期間は、約3日であった。
  • 18-64歳の被験者のほうが、65歳以上の被験者よりも有害事象の頻度が高かった。

副反応の種類軽症・中等症(%)重症(%)
発熱14.11.4
寒気42.91.3
関節痛37.65.2
筋肉痛49.09.0
疲労感55.69.7
頭痛54.14.5
吐気18.80.2
mRNA-1273接種(2回目)後の全身的な有害事象

接種28日以内の有害事象

  • 被検者より自発的に報告された、接種28日以内の有害事象については、mRNA-1273群とプラセボ群で概ね同様であった。
  • グレード3(重症)以上の有害事象の頻度は、プラセボ群で1.3%、mRNA-1273群で1.5%と同程度だった。
  • 過敏反応は、mRNA-1273群で1.5%、プラセボ群で1.1%に認められた。
  • プラセボ群で3人(消化管穿孔、心肺停止、慢性リンパ急性白血病患者の重症全身性炎症)、mRNA-1273群で2人(心肺停止、自殺)の死亡者があった。
  • ベル麻痺(急性の顔面神経麻痺)が、mRNA-1273群で3人、プラセボ群で1人に認められた。
  • 治験チームから、接種に関連していると判断された有害事象は、mRNA-1273群で8.2%、プラセボ群で4.5%であった。

プラセボ群mRNA-1273群
頭痛12人
(<0.1%)
20人
(0.1%)
高血圧32人
(0.2%)
23人
(0.2%)
筋肉痛2人
(<0.1%)
10人
(<0.1%)
倦怠感6人
(<0.1%)
12人
(<0.1%)
紅斑0人
(0%)
11人
(<0.1%)
重症以上の有害事象(10人以上のもの)

有効性

  • 有効性の解析対象となった28,208人のうち、196人が観察期間中にCOVID-19を発症した。196人中185人がプラセボ群、11人がmRNA-1273群であり、mRNA-1273ワクチンがCOVID-19の発症を抑制する効果は94.1%であった。
  • 1回目のワクチン接種後14日以降で解析しても、95.2%の発症予防効果をみとめた。
  • 重症のCOVID-19は30人(うち1人が死亡)にみとめられたが、全員がプラセボ群であり、ワクチンの重症化予防効果は100%であった。
  • サブグループ解析では、人種、年齢、性別、重症化リスクの有無などにより、ワクチンの効果に大きな差異はみとめなかった。
  • 1回目のワクチン接種時に検査陰性だった被験者のうち、プラセボ群で39人ワクチン群で15人が、2回目の接種時に無症状で検査陽性となった。

ディスカッション(論文著者らの見解)

ワクチンの効果について

  • 医療機関の逼迫や、合併症、死亡につながるような、重症のCOVID-19について高い予防効果がみとめられたことは重要である。
  • 1回のワクチン接種でも発症予防効果がみとめられたが、今回の試験は2回接種の効果を見るように計画されたものなので、追加の試験を行って確認する必要がある。
  • COVE試験は現在も進行中であり、長期的なワクチンの有効性については引き続き検討を行う。

ワクチンの安全性について

  • ワクチン接種局所での副反応は、全体として軽度なものであった。
  • 中程度から重度の疲労感、関節痛、筋肉痛、頭痛などの全身的な副反応が、2回目の接種後に約50%の被験者でみとめられた。
    これらは、2回目の接種後約15時間後から出現し、ほとんどの被験者では2日目までに後遺症なく改善した。
  • 被験者の人数が少ないためか、アナフィラキシー等の重篤な過敏反応はみとめられなかった。
  • ベル麻痺については、ファイザー社のBNT162b2ワクチンの臨床試験でも報告されており、副反応の可能性を考慮して注意深い観察が必要である。
  • 懸念されていたような、ワクチンによるCOVID-19の増悪(抗体依存性感染増強)は、短期的にはみとめられなかった。

今回の試験の限界について

  • 中間解析結果であるため、効果や安全性に関する観察期間が充分でない(今後2年間にわたって観察を継続する予定)。
  • mRNA-1273ワクチンが不顕性感染を予防できるかについては、充分なデータが得られなかった。
  • 高齢者や人種的マイノリティ、既感染者に関する予防効果は、対象となる被験者数が少ないために充分な解析ができなかった。
  • 妊婦や小児に対するワクチンの効果については、別の試験が計画中である。

総括

パンデミックが発生してから1年以内で、①病原体の同定、②ワクチンの標的を決定、③ワクチンの構造を決定、④大規模な製造施設の整備、⑤第1相から3相の臨床試験の実施、⑥試験結果の報告、の全ての過程が完了したのは、学会・政府・関係省庁・産業界・社会が一丸となって協力したためである。
今回得られた教訓が、将来の新たな病原体によるパンデミックに、より良く対応するための礎となるであろう。

院長の感想

 今年の2月から、日本国内でもファイザー製ワクチン(BNT162b2)の接種が開始されたことは、多くの皆さまがニュース等でご存知かと思います。
しかし、ファイザー製ワクチンの輸入量は非常に少なく、3月下旬時点では医療関係者への優先接種も一部でしか行われておりません。
このペースだと、医療関係者への接種が完了するのは、おそらく5月中旬~下旬ころで、高齢の方への接種が本格化するのは、それ以降になると思われます。

 感染が比較的下火になる暖かい時期に、なるべく多くの方にワクチンを受けていただくためには、ワクチンの供給元を複数確保する必要があり、日本政府がすでに5千万回分を契約ずみのモデルナ製ワクチンの承認には、大きな期待が寄せられています。

 今回の論文のデーターを参照する限り、モデルナ製mRNA-1273ワクチンの有効性・安全性は、ファイザー製BNT162b2ワクチンとほぼ同等と思われます。
臨床試験はよくデザインされたもので、データー的にも非常にクリアであり、少なくとも短期での発症予防効果と重症化予防効果については、疑問の余地がありません。
2回目接種後の全身的な副反応(頭痛、疲労感、筋肉痛など)の強さは気になるところですが、これはコロナワクチンのスパイクタンパクの免疫原性の高さによるものであり、ファイザーやアストラゼネカのワクチンでもほぼ同程度と思われます。
新型コロナワクチンの接種(特に2回目)を受ける場合には、翌日や翌々日に重要な予定を入れないほうが良いでしょう。
懸念されることの多い、強いアレルギー反応(アナフィラキシー)に関しては、この論文には記載がありませんが、米国CDCの発表によると約40万人に1人で、ファイザー製ワクチンよりも頻度としては低いようです。

 報道によれば、mRNA-1273ナワクチンは5月中の承認を目指して国内での臨床試験が進行中とのですので、期待して続報を待ちたいと思います。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

2021年5月21日追記

本日、モデルナ社製mRNA-1273ワクチンが、厚生労働省に特例承認されました。
COVID−19ワクチンモデルナ筋注(独立行政法人医薬品医療機器総合機構=PMDAのページ)
国内I/II相試験として、4週間間隔の2回接種を150人に行ったところ、以下のような有害事象になったようです。
参考に、ファイザーワクチン(BNT162b2)の日本人119人に対する2回目接種後の有害事象も添付文書から抜粋して併記してみます。

有害事象1回目接種後2回目接種後ファイザー
(2回目接種後)
注射部位疼痛82.7%85.0%79.3%
頭痛13.3%47.6%44.0%
疲労18.7%63.3%60.3%
筋肉痛37.3%49.7%16.4%
関節痛8.0%32.0%25.0%
悪寒5.3%50.3%45.7%
発熱2.0%40.1%32.8%
国内試験でのモデルナワクチンの副反応

1回目よりも2回目接種後に副反応が強く出るのは、ファイザーワクチンと同じ傾向です。
全般にファイザーより副反応の頻度がやや高い傾向ですが、筋肉痛がファイザーの3倍近い頻度なのは注意するべきかもしれません。
モデルナワクチンを接種される方は、特に2回目の前には解熱鎮痛剤を用意しておいたほうが無難なように思われます。
なお、免疫原性の評価においては、2回接種できた147例全てに中和抗体が誘導され、極めて良好な成績が得られています。

モデルナワクチンは、保存条件がファイザーワクチンよりもゆるく、冷蔵庫で30日間の保存が可能です。
また、投与前に希釈する必要がなく、ファイザーワクチンよりも取り扱いは容易と思われます。
これから国民を対象としたワクチン接種を急ピッチで進めなければいけない日本にとっては、歓迎するべき強力な援軍の到来といえそうです。