mRNAワクチンのブースター(3回目)接種によるオミクロン株への中和抗体の増加作用
目次
はじめに
2022年1月15日現在、日本国内におけるオミクロン株の感染確認数は前例のない速度で増加を続け、早くも第5波のピークに匹敵する、2万5千件/日に達しています。
今後も当分は感染者数の増加が続く見込みであり、1月後半には東京都だけでも1万件/日に達するとの予測も発表されました。
東京の新規感染「ピーク時は1万人超」 専門家試算、1月後半にも(毎日新聞)
危機感を強めた政府は、高齢者に対する新型コロナウイルスワクチンの3回目接種(ブースター接種)を、従来の「2回目接種から7ヶ月後」から、3月以降は6ヶ月後に短縮するという方針を示しました。
新型コロナ 3回目のワクチン接種 2回目との間隔短縮へ 厚労相(NHKニュース)
ただ、2回目のワクチン接種を終えた人がオミクロン株に感染する事例が相次いでいることから、ブースター接種が果たしてオミクロン株にどの程度有効なのか、疑問に感じていらっしゃる方は多いかと思います。
1月6日付の Cell 誌のオンライン版に、この疑問に関するある程度の解答を示してくれる論文が掲載されましたので、今回はこの論文の内容を読み解いてみたいと思います。
原文(英語)や図表は、下のリンクからお読みいただけます
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8733787/
※じっくり目を通すお時間がない方は、重要と思われる箇所を赤文字にしましたので、拾い読みなさってください。
試験デザイン
- 米国で認可されている3種類のワクチン(ファイザー、モデルナ、ジョンソンアンドジョンソン)のいずれかが接種された239名の血清を使って、野生株、デルタ株、オミクロン株に対する中和能力を評価した。
- 239名を、①2回のワクチン接種から3ヶ月以内、②2回のワクチン接種から6-12ヶ月、③2回のワクチン接種から6-12ヶ月でSARS-COV2の感染歴あり、④ブースター接種から3ヶ月以内、の4群に分類した。(ジョンソンアンドジョンソン社のワクチンは、1回接種のみ)
- 希釈した血清を、それぞれの変異株と同じスパイク蛋白をもつ模造ウイルスと混合したあと、感染のターゲットであるACE2を表出する培養細胞への感染力を測定した。
- それぞれの血清での感染力の低下作用から、中和抗体の濃度(IU/ml)を算出した。
試験結果
- 接種から3ヶ月以内の群において、ファイザー(2,402IU/ml)とモデルナ(1,362IU/ml)では、ジョンソンアンドジョンソン(42IU/ml)と比較して高い中和抗体価を示した。
- 接種から6ヶ月以上経過した群では、野生株に対する中和抗体価の低下が認められた。(ファイザー:78IU/ml、モデルナ:192IU/ml、ジョンソンアンドジョンソン:33IU/ml)
- SARS-COV2への感染歴がある群では、ワクチン接種から6ヶ月以上経過していても野生株に対する高い中和抗体価が認められた。(ファイザー:947IU/ml、モデルナ904IU/ml、ジョンソンアンドジョンソン:603IU/ml)
- ブースター接種後の群では、野生株に対して最も高い中和抗体価を示した。(ファイザー:2,219IU/ml、モデルナ3,862IU/ml、ジョンソンアンドジョンソン:1,201IU/ml)
- 2回接種後6ヶ月以上経過した群では、デルタ株に対する中和抗体がほとんど検出できなかったが、2回接種から3ヶ月以内の群、SARS-COV2への感染歴がある群、ブースター接種後の群では、中和抗体価の低下は軽微であった。
- オミクロン株に対しては、2回接種から3ヶ月以内の群でも野生株と比較して中和抗体価が激減した。(ファイザー:43分の1、モデルナ:122分の1)
- ブースター接種後の群では、オミクロン株での中和抗体価の低下は軽度にとどまった(ファイザー:4分の1、モデルナ:12分の1)
- 2回接種後3ヶ月以内の群とブースター接種後の群を比較すると、オミクロン株に対する中和抗体価は、ブースター接種後の群のほうが高かった。(ファイザー:27倍、モデルナ:19倍)
- 2回接種後の群では、野生株に対する中和抗体価が、デルタ株の中和抗体価と弱く相関していたが、オミクロン株の中和抗体価とは相関していなかった。
- ブースター接種後の群では、野生株に対する中和抗体価が、デルタ株およびオミクロン株の中和抗体価と強く相関していた。
- 模造ウイルスの培養細胞への感染実験を行ったところ、デルタ株は野生株の2倍、オミクロン株は野生株の4倍の感染力があった。
論文著者らの見解
- オミクロン株は、従来のワクチンの2回接種で得られた免疫を回避する。
- ブースター接種は、オミクロン株を中和できる、より広範囲な抗原に対応可能な抗体を体内で形成する。
- ワクチン内の抗原が同じものであるのに、ブースター接種の結果としてより広範囲な抗原に対応可能な抗体が形成される現象は興味深い。
- 野生株用のワクチンのブースター接種は、変異株専用のワクチンを新開発せずとも充分な免疫効果を発揮すると思われる。
- ブースター接種による広範囲な免疫が、どの程度の期間持続するかは今後の研究を必要とする。
- 今回の研究結果は、mRNAワクチンによるブースター接種の、迅速かつ一斉な接種を支持するものである。
院長の感想
今回の論文を要約すると、
- オミクロン株に対しては、従来ワクチンの2回接種ではほとんど免疫が得られない。
- ブースター接種を受けると、体内でできる抗体の量が増えるだけでなく、抗体の質的な変化も起こり、オミクロン株に対する免疫が得られる。
ということになるかと思います。
同じ抗原が繰り返し体内に入ると、体内でできる抗体がより広範囲な抗原に対応可能となるという結果には、非常に神秘的な印象を受けました。
繰り返し感染する病原体はいずれ変異するということを、過去の経験から人類が種として学習しており、それに対応できるよう免疫系が進化を遂げた結果なのでしょうか?
(毎冬のインフルエンザの流行などは、まさにこれに該当します)
とにかく、オミクロン株に対しては従来ワクチンの2回接種では不十分で、ブースター接種が必須であることは間違いないようです。
オミクロン株の感染が拡大する一方である現在、リスクの高い高齢者へのブースター接種が、一日も早く開始できるよう願ってやみません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。