目次
1.ざっくりと5項目で解説
- 睡眠中に、喉の付近で空気の通り道(上気道)がせばまり、呼吸が不十分になったり止まってしまったりする病気です。
- 太りすぎや小さな下あご、扁桃腺の肥大、舌根や軟口蓋の沈下などが主な原因です。
- 睡眠中の大きないびきと一時的な呼吸停止が特徴です。熟睡できないため、昼間の眠気やだるさ集中力の低下をきたし、仕事や日常生活に悪い影響をおよぼします。
- 高血圧や糖尿病、不整脈、脳梗塞など、多くの成人疾患の発症や悪化と関係しています。
- CPAP(シーパップ)という治療で、ほとんどの方の症状が改善します。
2.病気のメカニズム
睡眠による上気道の狭窄
人間は、眠ると筋肉がゆるむようにできています。
舌や軟口蓋(いわゆる“のどちんこ”の周辺)も、眠ると筋肉がゆるみ、のどの奥の方に落ち込みます(医学用語では沈下といいます)。
・太っている。
・扁桃腺が肥大している。
などの原因で、鼻から喉にかけての空気の通り道(上気道)がもともと狭い方は、眠って舌や軟口蓋が沈下することにより、上気道が狭窄してしまいます。
また、
・鼻づまりなどが原因で口をあけて眠る。
・下あごが生まれつき小さい。
・アルコールや睡眠薬を飲んで眠る習慣がある。
などの方では、舌や軟口蓋の沈下が強くなり、上気道の狭窄をより起こしやすくなります。
いびきと無呼吸
狭窄している上気道を無理やり空気が通ると、のどの粘膜が振動して大きな雑音がでます。これがいびきです。
上気道の狭窄がさらに強くなり、空気がまったく通過できなくなると、いびきは止まりますが、同時に呼吸も止まってしまいます。これが無呼吸という状態です。
無呼吸は長いときには数十秒間つづきますが、息ぐるしさから睡眠が浅くなると舌や軟口蓋の沈下が弱まるため、上気道を空気が通過できるようになり呼吸が再開します。
このため、無呼吸によって亡くなってしまうようなことは通常ありません。
昼間の症状
重症の睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者さまでは、一時間あたり数十回から百回以上の無呼吸が生じています。
一時間に数十回、それぞれ数十秒ずつ水中に潜っているようなものですから、体も脳も休養をとることができません。
そのため睡眠時無呼吸症候群の患者さまは、朝目覚めても頭がスッキリしません。
仕事に行っても、眠気やだるさのために能率が上がらず、注意不足から大きなミスをすることもあります。
昼食を食べると眠くなってしまい、午後の大切な会議で居眠りをしてしまったり、中には交通事故を起こしてしまう患者さまもおられます。
このような症状による経済的な損失は、日本全体で年間3.5兆円に達するという試算があります
生活習慣病の合併
SASの患者さまは、高血圧や糖尿病、狭心症などの様々な生活習慣病を併発されます。
これは、夜間の覚醒にともなう自律神経の興奮や、酸化ストレス、ホルモンへの反応の異常などが原因と考えられています。
中等症以上のSASを無治療で放置すると、8年後には死亡率が37%にも達するとの報告もあり、SASは寿命にも影響する重大な疾患ということができます。
3.診断のながれ
問診
ご家族から就寝中のいびきや呼吸停止を指摘された、昼間の眠気やだるさが続くなどの理由でご相談に来られた患者さまには、SASの検査をおすすめいたします。
また、高血圧や糖尿病などの成人疾患で通院中の患者さまで肥満ぎみの方には、医師の方から検査をおすすめさせていただくことがあります。
簡易検査
医療機関から検査装置の貸し出しを受けて、自宅で行うことができる検査です。
呼吸を感知する気流センサを鼻に、体内の酸素量を測定するSpO2プローブを指先に装着して、小型の記録装置を腕またはお腹に固定して眠っていただきます。
2晩ほど記録してから医療機関に返却していただくと、2週間前後で検査結果をお伝えできます。
1時間あたりの無呼吸/低呼吸の回数(Apnea Hypopnea Index= AHI)を計算して、5以上であればSASと診断されます。
SASの重症度 | AHI |
軽症 | 5~15 |
中等症 | 15~30 |
重症 | 30以上 |
精密検査(睡眠ポリグラフ検査)
脳波や筋電図など、簡易検査よりも多くのセンサで睡眠の状態を分析します。
上気道の閉塞により起こる一般的なSAS(閉塞性睡眠時無呼吸症候群=OSAS)だけでなく、脳からの呼吸信号が不安定なために起こるSAS(中枢性睡眠時無呼吸症候群=CSAS)の診断も可能です。
従来は病院への一泊入院が必要でしたが、在宅で精密検査が行える装置が開発され、患者さまの金銭的・時間的なご負担が軽減できるようになりました。
在宅での精密検査の費用負担は、保険診療(3割負担)で12,000円前後となります。
4.治療
治療の基本
ほとんどのSASの患者さまは、CPAPという治療で無呼吸/低呼吸が大幅に減少し、昼間の眠気などの症状も改善します。
CPAP治療を継続しながら、肥満の解消や合併した生活習慣病の治療などにも取り組む必要があります。
CPAP
経鼻的持続陽圧呼吸療法(Continuous positive airway pressure =CPAP)は、SASの標準的治療です。
枕元においた箱型の装置と接続しているマスクを、鼻に装着して眠っていただきます。
マスクを通じて上気道に陽圧をかけることにより、上気道の狭窄が改善され、無呼吸や低呼吸が起こりづらくなります。
装着中の無呼吸の発生回数や、毎日の使用時間などのデーターは、インターネットを通じて医療機関から確認することができ、治療に役立てられます。
CPAP治療には健康保険が適用されます。
無呼吸/低呼吸指数(AHI)が40以上の方は、簡易検査の結果だけでも治療導入可能です。
無呼吸/低呼吸指数(AHI)が20~40の方は、精密検査を受けていただいた上での治療導入となります。
治療導入後は医療機関を1-2ヶ月ごとに受診し、継続管理を受けていただく必要があります。
歯科装具
CPAP治療が保険適応とならない、比較的軽症(AHI20未満)のSASの患者さまや、違和感などの理由でCPAPが使用できない患者さまなどでは、歯科装具(マウスピース)を用いた治療を行うことがあります。
マウスピースを装着して眠ることで、下顎が前にずれた状態に固定され、上気道の閉塞が予防されます。
マウスピースの制作には、SASに関する知識が豊富な歯科医師の診療を受けていただく必要があります。
耳鼻科的手術
CPAPや歯科装具が使用できない方で、扁桃腺の肥大など手術で改善できる要因がはっきりしている方には、耳鼻科的手術が選択されることがあります。
SASに関する知識が豊富な、耳鼻咽喉科の医師の診療を受けていただく必要があります。
減量、体位療法
肥満が上気道の閉塞に大きく関与していると思われる患者さまには、食事内容の見直しや定期的な運動による減量が効果的です。
また、比較的軽症なSASの患者さまでは、横向きに眠ることで仰向けよりも無呼吸が改善する方もおられるため、横向きでの就寝を指導することがあります。
生活習慣病の治療
SASの患者さまは、一般の方と比較して、糖尿病を1.5倍、高血圧を2倍、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)を3倍、脳血管疾患を4倍多く合併すると報告されています。
これらのうち、高血圧と虚血性心疾患ではCPAP治療によって明らかな予後改善効果が報告されており、個別の合併症に対する内科的治療に加えて、CPAP治療を継続する事が大切です。
5.日常生活のご注意
食事・飲酒
統計的にもっとも病気になりづらい理想体重(kg)は、身長(m)2 ✕ 22とされています。
SASの患者さまで実際の体重が理想体重をオーバーしている方は、理想体重に近づくように食事の内容を見直していただくのがよろしいでしょう。
1日の総摂取カロリーを、理想体重(kg)✕30(身長170cmで1900Cal)程度にしていただくと、比較的無理のないペースで減量ができます。
SASの患者さまが10%の減量に成功すると、AHIは26%低下すると報告されています。
飲酒は、お酒そのもののカロリーに加えて、おつまみなどでカロリー超過となりやすいので、適量(ビール中瓶1本程度)を週1,2回程度にされると良いでしょう。
寝酒は、喉の筋肉を弛緩させて無呼吸の悪化につながるため、お控えください。
身長(cm) | 理想体重(kg) |
150 | 49.5 |
155 | 52.8 |
160 | 56.3 |
165 | 59.9 |
170 | 63.6 |
175 | 67.4 |
180 | 71.3 |
運動
CPAPを使用して昼間のだるさが軽減したら、主治医と相談の上で定期的な運動を始められることをおすすめします。
週3-4回程度、30分以上の有酸素運動(ウォーキング、水泳、エアロビクス、サイクリングなど)をすると、減量効果が期待できます。
糖尿病や高血圧、脂質異常症など、合併している生活習慣病にも良い影響が期待できます。
睡眠薬
SASの患者さまの中には、「熟睡できない」「夜中に目が覚める」という理由で、睡眠薬を常用されている方がおられます。
しかし、睡眠薬は喉の筋肉の緊張を低下させるため、上気道の狭窄を強めてSASの症状を悪化させてしまう可能性があります。
SASと診断された場合には、睡眠薬の服用をなるべく控えていただき、CPAP治療の効果をみるのが良いでしょう。
その上で、やはり睡眠薬が必要と感じられた場合には、医師にご相談いただくのがよろしいでしょう。
6.いわつき三楽クリニックでの診療
簡易検査、在宅での精密検査、ならびにCPAP治療の外来管理が可能です。
合併している生活習慣病も、当院にて治療させていただきます。
入院での精密検査を希望される患者さまには、対応可能な専門医療機関をご紹介いたします。
歯科装具による治療が必要な患者さまには、歯科装具の作成経験が豊富な歯科クリニックをご紹介いたします。