目次
1.ざっくりと5項目で解説
- タバコの煙が原因で肺の能力が低下し、せきやたん、運動した際の息切れなどの症状を生じる病気です。
- 肺胞がこわれて肺がスカスカになる「気腫性病変」と、気管支に炎症を起こす「末梢気道病変」の、2種類の病変が混合しています。
- 軽症のときは、坂道や階段をのぼるときなどに息苦しく感じる程度ですが、病気が進行すると、お風呂やトイレで用を足す時にも苦しくなり、日常生活に不自由をきたすようになります。
- こわれた肺を元通りにすることはできないので、「残っている肺の能力をフル活用して、日常生活の質を改善する。」ことが、治療の目標です。
- うつや栄養障害、骨粗しょう症など、さまざまな病気を併発するため、単なる肺の病気ではなく、全身的な病気として対応する必要があります。
2.病気のメカニズム
肺の構造とガス交換
肺は、肺胞という小さな袋がブドウの房状にぎっしりと集まった構造をしています。
肺胞はおよそ3億個あり、全てひろげるとテニスコート半分(約70m2)もの広さになります。
肺胞に吸い込まれた空気には約20%の濃度の酸素がふくまれており、肺胞をとりかこむ血管から血液の中へと取りこまれます。
同時に、体内で作られた老廃物である二酸化炭素が血液から肺胞へと出ていきます。
これを肺でのガス交換といいます。
気腫性病変
タバコの煙などの有害物質が肺胞に入ると、一部の人では肺胞に炎症が起こり、肺胞の壁が破壊されます。
肺胞が破壊された部分は、一つの大きな袋(気腫性のう胞)におきかわり、ガス交換がおこなわれる面積が大幅に減少します。
タバコを吸い続けた結果、肺の中で気腫性のう胞の占める部分が大きくなってくると、肺でのガス交換が充分にできなくなり、息切れが起こるようになります。
これを気腫性病変といいます。
末梢気道病変
タバコの煙は、肺胞への空気の通り道である気管支にも炎症を起こします。
炎症を起こした気管支は、壁がむくんだり粘液(たん)の分泌が増えたりすることで内腔が狭くなり、空気がスムーズに通過できなくなります。
これを末梢気道病変と呼びます。
気腫性病変+末梢気道病変=慢性閉塞性肺疾患(COPD)
慢性閉塞性肺疾(COPD)の患者さまの肺には、気腫性病変と末梢気道性病変が、様々な程度で混在しています。
正常な肺は新品の風船のように弾力性があり、自然にちぢんで空気をはき出す力をもっていますが、気腫性病変が強くなった肺は伸びてヨレヨレになった風船に似ており、簡単にふくらむ一方で、ちぢんで空気をはき出す力が落ちています。
また、末梢気道病変によって気管支が狭くなると、風船の口を指でつまんだような状態になり、ますます肺から空気が出ていきづらくなります。
このため、COPDの患者さまの多くは「息を吐きづらい」と感じられます。
3.診断のながれ
問診
せきやたん、体を動かしたときの息切れなどでお困りの患者さまの中で、現在タバコを吸われている方、過去にタバコを吸われていたことがある方には、COPDの検査をおすすめします。
呼吸機能検査
呼吸機能検査(スパイロメトリー)で、最初の一秒間にはき出せる量(一秒量)が、限界まではき出し切ったトータルの量(肺活量)の70%未満であった方は、COPDの可能性があります。
気管支拡張薬を吸入していただいても一秒量がほとんど改善しない場合には、COPDの可能性が非常に高いと考えられます。
*気管支拡張薬で一秒量が大きく改善する場合は、気管支喘息の可能性があります。
年齢、性別、身長から計算した一秒量の標準値と比べて、患者さまの一秒量が何%相当かによってCOPDのおよその重症度がわかります。
COPDの病期 | 患者さまの一秒量/標準一秒量(%) |
I期(軽度) | 80%以上 |
II期(中等度) | 50-79% |
III期(高度) | 30-49% |
IV期(極めて高度) | 30%未満 |
画像検査(レントゲン、CTスキャン)
胸部レントゲンを撮影すると、COPDの方では、肺が上下に長く、前後に厚く写ります。
息を十分に吐き切れず、肺が過膨張している状態を示しています。
胸部CTスキャンでは、レントゲンよりもくわしく肺の様子を見ることができます。
気腫性変化を起こした部分は、正常な肺よりも黒っぽく見えます。
慢性気管支炎を起こしている気管支は、正常よりも壁が厚く見えたり、中に分泌物(たん)が詰まっていたりします。
4.治療
治療の目標
気腫化してしまった肺を正常な状態に再生することは、残念ですが現代の医学ではまだできません。
薬物治療や栄養指導、運動療法などの組み合わせで残った肺の機能をフルに活用することにより、患者さまの生活の質を改善し、良い体調を長く保つことが治療の目標となります。
気管支拡張薬
COPDの治療には、気管支拡張薬の吸入剤が多く使われます。
長時間作用型抗コリン薬(LAMA)と、長時間作用型ベータ刺激薬(LABA)の2種類があり、2種類をミックスした配合剤も広く使われています。
朝1回、または朝夕2回の吸入で、息切れなどの症状をやわらげてくれます。
スプレー剤やパウダー剤など、さまざまな吸入方式の薬剤が使用できますが、患者さまの体調や生活習慣なども考慮に入れて最適なものをチョイスします。
なお、緑内障や前立腺肥大をお持ちの患者さまは、LAMAの投与で症状が悪化することがあるため注意が必要です。
階段をのぼった後、ちょっとした作業をした後など、息切れをとくに強く感じるタイミングでは、短時間作用型ベータ刺激薬(SABA)のスプレー剤を吸入していただくと、息切れをやわらげることができます。
ただし、短時間にくりかえして何回も使うと、心臓に負担をかけてしまうことがあるので、使いすぎにはご注意ください。
吸入ステロイド
COPDの患者さまの、およそ4人に1人が気管支喘息を合併していると考えられています。
検査データーや症状の変動から、気管支喘息を合併していると考えられる患者さまには、気管支拡張薬に追加して吸入ステロイド薬をご使用いただくと効果的です。
最近では、吸入ステロイド/長時間作用型ベータ刺激薬(LABA)/長時間作用型抗コリン薬(LAMA)の3成分配合剤が発売され、患者さまの利便性が向上しています。
テオフィリン
昔から使用されている、気管支拡張作用のある飲み薬です。
飲みすぎると手の震えや吐き気、動悸などの副作用が出やすいため、少量を他の薬剤の補助として服用していただくのが一般的です。
去痰剤
痰が固く、スムーズに出すことができない患者さまでは、去痰剤の服用で症状が改善することがあります。
去痰剤は数種類ありますが、作用のメカニズムがそれぞれ異なっているため、患者さまと相談しながら最適なものを選びます。
増悪時の治療
ウイルスや細菌の感染などをきっかけに、息切れなどの症状が普段よりも悪化することを、COPDの増悪といいます。
増悪を起こされたときには、普段の薬物療法に加えて、抗生物質やステロイドホルモンの点滴または内服、気管支拡張薬の増量などが必要になります。
増悪の程度が強い場合には、入院治療が必要になることもあります。
在宅酸素療法
肺の能力が大きく低下し、着替える、食事をする、トイレで用を足すなどの日常的な動作で強い息切れを感じる患者さまには、在宅酸素療法の導入をおすすめします。
すえ置き型の酸素濃縮装置をご自宅に置いていただけば、長めの酸素チューブを使ってお風呂やトイレのときにも酸素を吸入していただくことができます。
お出かけのときは、樹脂でできた軽量の酸素ボンベをカバンや専用カートに乗せて持ち運んでいただくのが一般的です。
健康保険が適用されますので、月々の金銭的ご負担は一万円未満です。(ご年齢や身体障害者の認定のあり/なしで、ご負担額は異なります。)
合併症の診断と治療
COPDの患者さまは同年代の他の方と比較して、より多くの疾患を併発される傾向にあります。
肺の炎症からサイトカインという物質が血液の流れで全身に運ばれ、さまざまな悪影響をおよぼしているのではないかという説が有力です。
COPDに対しては、肺にとどまらない全身的な病気と考え、さまざまな合併症を含めた包括的な診療を行う必要があります。
循環器系 | 高血圧、狭心症、心筋梗塞、不整脈 |
消化器系 | 胃潰瘍、逆流性食道炎 |
代謝内分泌系 | 糖尿病、栄養障害(サルコペニア)、骨粗鬆症 |
精神神経系 | 不安、抑うつ |
呼吸器系 | 気管支喘息、肺がん、睡眠時無呼吸症候群(SAS) |
5.日常生活のご注意
禁煙
COPDと診断された患者様にとって、何よりも大切なのは、一日でも早く禁煙していただくことです。
喫煙をつづけけられるかぎり、肺の破壊はどんどん進行していき、どんな薬を使っても止めることはできません。
日常生活に支障をきたすほど 進行してしまう前に、ぜひ禁煙なさって下さい。
禁煙にチャレンジしてみたものの、なかなか成功できないという方は、禁煙外来を受診いただくことをおすすめいたします。
感染予防
肺炎や気管支炎などの呼吸器感染症を起こすと、肺の機能がさらに低下してしまう可能性があります。
うがいや手洗いをこまめに行うほか、インフルエンザの流行期には多くの人が集まる場所を避ける、やむを得ず出かける場合はマスクを着用するなどして、感染の予防に努めましょう。
冬に空気が乾燥しがちな地域にお住まいの方は、お部屋で加湿器を使用するのも効果的です(加湿器のお手入れは忘れずにしましょう)。
肺炎球菌ワクチンややインフルエンザワクチンの接種は、ぜひ行っておきましょう。
COPDの患者さまは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で重症化する危険性が高いと考えられています。
新型コロナウイルスワクチンの接種をおすすめいたします。
栄養管理
COPDの患者さまは、呼吸をするときに呼吸筋(横隔膜や肋間筋)を酷使するため、健康な人よりも多くのエネルギーを、食事によってとる必要があります。
ところが、COPDの患者さまの多くは、息切れや胃腸の働きの低下などが原因で十分な量の食事をとることができません。
このため、「苦しい→食欲低下→栄養障害→呼吸筋がやせる→さらに苦しくなる」という悪循環を起こしやすくなります。
適正な体重を維持できるだけの、十分なエネルギーとタンパク質の摂取が必要です。
また、体の抵抗力を高め、骨粗しょう症を防いでくれる、ビタミン類をバランス良くとっていただくことも大切です。
食事を小分けにして回数を増やす、油を多めに使った献立にする、おやつを食べる、栄養補助食品を試してみる、など、医師と相談しながら食事を工夫してみましょう。
運動
COPDの患者さまは、息苦しくなるのをさけるため、すわったり寝たりしてすごす時間が長くなり、日々の活動性が低下しがちです。
しかし、適度な運動を行うことは、①心臓と肺の機能をたもつ、②筋肉の力をたもつ、③体の抵抗力を高める、④食欲をまして栄養状態を改善する、⑤気力の低下をふせぐ、など、多くのメリットがあります。
医師と相談しながら、無理のない範囲でお散歩やストレッチなどの運動を行いましょう。
無理なく安全に運動を行っていただくために、酸素飽和度測定装置(パルスオキシメーター)のご購入、ご使用をおすすめいたします。
大手の通販サイトなどで、1万円前後から購入できるようになっていますが、ご希望があれば当院でもご購入のお手伝いをいたします。
6.いわつき三楽クリニックでの診療
軽症から在宅酸素レベルまでの、COPDに対する診断と治療の全般に対応いたします。
肺炎などによる増悪で、入院を必要とされる方には、呼吸器専門医が在籍する専門医療機関をご紹介させていただきます。