目次
1.ざっくりと5項目で解説
- 肺の中のパイプ(気管支)が、アレルギーなどの原因で炎症を起こし、肺への空気の出入りが悪くなる病気です。
- せきやたん、息苦しさなどの症状が、季節や時間帯で大きく変動するのが特徴です。
- 特に症状が強く、呼吸のときにゼイゼイと音がするような状態を、喘息発作といいます。
- 気管支の炎症をおさえるステロイドホルモンの吸入薬が、最も効果的で大切な治療法です。
- 「治す」というより、発作を起こさないように「コントロールする」ことが、治療の目標になります。
2.病気のメカニズム
気管支の構造
肺の中には、呼吸で吸いこんだ空気をすみずみまで運ぶため、気管支というパイプが木の枝のように細かく枝分かれして分布しています。
気管支の内側の空気とふれる部分を、粘膜上皮といいます。
粘膜上皮は、粘液を分泌する杯(さかづき)細胞や、粘液を輸送する毛の生えた線毛細胞などでできています。
粘膜上皮の下の粘膜固有層には筋肉(平滑筋)があり、気管支の太さを調節しています。
(イラスト:A)
喘息による気管支の変化
気管支喘息の患者さまは、ハウスダストなどの吸入物質に対するアレルギーなどが原因で、気管支に持続的な炎症を起こしています。
炎症を起した気管支には、血液から好酸球やリンパ球などの炎症細胞がたくさん移動してきて、むくみが生じています。
また、炎症によって杯細胞が増えて粘液の分泌が多くなる一方で、線毛細胞の働きが低下して粘液を排泄する能力が落ちるため、たんが気管支の中にたまりやすくなります。
これらの結果として、健康な人と比べると気管支の内腔が狭くなり、せきやたん、息苦しさなどの症状を感じるようになります。
(イラスト:B)
喘息発作
かぜをひいたり、アレルギー物質を吸入したりというきっかけで気管支の炎症が強くなると、その刺激で気管支の平滑筋が収縮し、気管支の内腔がさらに狭くなります。
せきやたん、息苦しさなどの症状は強くなり、呼吸するときにゼイゼイと音がする(喘鳴=ぜんめい)ようになります。
この状態を喘息発作といいます。
(イラスト:C)
リモデリング
気管支の炎症が長い間つづくと、気管支の壁が厚く固く変化して、常に気管支が狭窄した状態になってしまいます。
この状態をリモデリングといい、喘息が難治化、重症化する大きな原因と考えられています。
(イラスト:D)
3.診断のながれ
問診
せきやたん、息苦しさでお困りの患者さまで、一日の中の時間帯や季節によって症状が大きく変動されるような方は、気管支喘息の疑いがあります。
ご職業や、お住まいの環境、ペットの飼育状況、過去のアレルギー歴などにつきまして、くわしくお話を聞かせていただきます。
聴診
喘息発作を起こしていない状態では、呼吸の音を聴診しても健康な方とほとんど違いがありません。
喘息発作を起こすと、息をはき出すときに笛のような高い音(喘鳴=ぜんめい)が聞こえることがあります。
これは、狭くなった気管支を空気が通過するときに、空気の流れが乱れるためです。
喘息発作が非常に重くなると、肺に出入りする空気の量が少なくなってしまうため、喘鳴はむしろ聞こえづらくなります。
呼吸機能検査・モストグラフ
息を全力ではき出していただき、最初の一秒間ではき出せた量(一秒量)が正常よりも少ない方は、気管支喘息の可能性があります。
気管支を拡げるお薬を吸入していただき、一秒量が大幅に改善した場合は、気管支喘息の可能性が非常に高くなります。
咳が出やすい、あるいはご高齢などの理由で、呼吸機能検査を行うのが難しい患者さまの場合には、総合呼吸抵抗測定装置(モストグラフ)で呼吸抵抗が高くなっているかどうかをみると、診断に役立ちます。
呼気一酸化窒素検査(FeNO)
気管支にアレルギーによる炎症が存在すると、呼気にふくまれる一酸化窒素の濃度(FeNO)が、健康な人よりも高くなります。
呼気一酸化窒素測定装置による測定で、35ppb(ppbは濃度の単位で10億分の1)以上の値を示した患者さまは、気管支喘息である可能性が高いと考えられます。
アレルギー検査
気管支喘息が疑われる患者さまには、アレルギー関連の項目についての血液検査をおすすめしています。
アレルギーに関わる白血球(好酸球)の数、アレルギーに関係する抗体(IgE)の総量、個別のアレルゲン(ダニ、ハウスダスト、動物のフケ、花粉など)に対応したIgEの濃度などの結果から、日常生活での注意点や喘息が悪化しやすい時期、重症喘息で使用する抗体薬の効果の良し悪しなどの情報が得られます。
総合的な診断
上に記した問診や聴診、各種検査の結果を総合して、気管支喘息と診断します。
4.治療
治療の目標
気管支喘息は、体質的な要因が大きい病気のため、治療で完治することはむずかしいと考えられています。
治療によって症状を完全におさえこみ、健康な方と変わらない快適な日常生活が送れるよう「コントロールする」ことが治療の目標となります。
吸入ステロイド薬
気管支の炎症をしずめる効果が高いステロイドホルモンの吸入薬が、最も基本的な気管支喘息の治療薬です。
吸入ステロイド薬を途切れることなく定期的に使用することが、喘息の良好なコントロールには欠かせません。
パウダータイプのもの、スプレータイプのもの、1日1回吸入のもの、1日2回吸入のものなど、製剤によっていろいろな特徴があるため、患者様と御相談しながら最適なものを使用します。
長時間作用型β刺激薬(LABA)
気管支壁の平滑筋をゆるめて、気管支を拡張する働きのある吸入薬です。
単独で使用することは少なく、吸入ステロイド剤とミックスした配合剤の形で使用するのが一般的です。
お子様やご高齢の方では、皮膚から吸収されるテープ製剤を使用することもあります。
短時間作用型β刺激薬(SABA)
即効性の高い気管支拡張薬で、軽い喘息発作を起こした時にスプレー型の発作止めとして使用されます。
一日に何回も発作止めが必要になるような状態の場合は、喘息のコントロールが充分できていない可能性があるため、医療機関で基本的な治療内容を調整する必要があります。
ロイコトリエン拮抗薬
気管支の炎症や収縮と深く関わる、ロイコトリエンという化学物質の作用をさまたげる飲み薬です。
患者様によって効果のあり/なしが比較的はっきりしているため、2週間ほどおためしで服用していただき、効果を見た上で継続するかどうかを判断します。
テオフィリン
昔から使用されている、気管支拡張作用のある飲み薬です。
飲みすぎると手の震えや吐き気、動悸などの副作用が出やすいため、少量を他の薬剤の補助として服用していただくのが一般的です。
抗コリン薬
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の方に使われることが多い吸入薬ですが、喘息の患者さまの痰がらみや咳にも有効です。
最近、吸入ステロイド薬/長時間作用型β刺激薬/抗コリン薬の3成分配合剤が発売され、患者さまの吸入の負担が軽減されるようになりました。
ステロイドホルモンの内服・点滴
強力な抗炎症作用があり、喘息発作の際に発作をおさめる目的で投与されます。
長期間投与すると免疫能の低下や血圧の上昇など様々な副作用を起こすため、症状を見ながら早めに中止する必要があります。
バイオ製剤(抗体薬)
他のお薬を充分に使っても喘息のコントロールができず、ひんぱんに発作を起こされるような重症の患者さまが対象となる注射薬です。
抗IgE抗体(オマリズマブ)、抗IL-5抗体(メポリズマブ)、抗IL-5受容体抗体(ベンラリズマブ)、抗IL-4/13受容体抗体(デュピルマブ)、抗TSLP抗体(テゼペルマブ)などが現在健康保険の適応となっています。
きわめて効果の高い治療ですが、お薬として高価なため、使用を開始するにあたっては医師との充分な相談が必要です。
気管支サーモプラスティ
重症の喘息患者さまに対して、2015年から健康保険が適応されるようになった新しい治療です。
ファイバースコープ(気管支鏡)を肺に挿入して、気管支の壁を高周波で加熱し、肥厚した平滑筋を減少させます。
2ヶ月間に3回の入院が必要であり、治療費も高額なため、医師と充分な相談の上で受けていただく必要があります。
メーカーによる機材製造中止のため、近日中に治療を行える医療機関がなくなる見込みです。
5.日常生活のご注意
治療を継続すること
薬物治療によって症状が落ちついても、ご自分の判断で治療を中止なさらないでください。
気管支の炎症がぶり返して、ふたたび気管支喘息の症状があらわれる可能性が高まります。
良好なコントロール状態が一定期間(半年から1年)続いている患者さまは、医師と相談しながら、徐々にお薬をへらしていくことが可能です。
禁煙
タバコの煙には有害物質が多くふくまれており、気管支の炎症を大幅に悪化させます。
タバコを吸われる気管支喘息の患者さまには、最優先で禁煙していただくようにおすすめしております。
もしも、ご自分の力だけで禁煙することは難しいとお感じになられたら、禁煙外来への通院をご検討ください。
アレルゲンの回避
ダニやハウスダストにアレルギーをお持ちの喘息患者さまは、カーペットやタタミの掃除をまめにおこなってください。
カビにアレルギーをお持ちの患者さまは、エアコンフィルターの定期的な掃除や交換が大切です。
イヌ・ネコの毛やフケにアレルギーをお持ちの患者さまでは、ペットとの同居をやめていただくのが最善なのですが、可愛いパートナーと離れられないのは当然なお気持ちかと思います。
医師と相談しながら、ブラッシングやお部屋の掃除のしかたなどを工夫してみましょう。
感染予防
かぜやインフルエンザなどの感染症で気管支に炎症を起こすと、気管支喘息のコントロールが悪化したり喘息発作を起こしたりする可能性が高くなります。
うがいや手洗い、マスクの着用などで、かぜの予防につとめましょう。
インフルエンザワクチンの接種も、おすすめです。
新型コロナウイルス感染症は、喘息の患者様では重症化する可能性があると考えられています。
新型コロナウイルスのワクチンは、重症のアレルギーをおこしたことがある方でなければ、なるべく受けていただいたほうが良いでしょう。
飲酒・運動・旅行・レジャー
お酒や激しい運動は、コントロールが不充分な状態の患者さまでは、喘息発作をひきおこす可能性があります。
また、飛行機への搭乗や標高の高い場所への移動なども、気圧や湿度の変化が症状を悪化させる可能性があります。
喘息の症状が安定していない状態で、旅行などの計画をたてられる場合には、事前に医師までご相談いただくのが良いでしょう。
アスピリン喘息の方へのご注意
喘息の患者さまのうち数%の方は、アスピリン喘息と呼ばれる特殊なタイプの喘息であると考えられています。
アスピリン喘息の方は、ほとんど全ての解熱鎮痛剤(=痛みどめ、熱さまし)で喘息の症状が悪化したり発作を起こしたりします。
解熱鎮痛剤は、市販のかぜ薬にも配合されていることがあります。
また、湿布薬や座薬、ぬり薬などの外用薬として使用されても、同じように喘息の悪化を引き起こします。
薬の処方を受けたり、市販薬を購入されるときには、充分にご注意下さい。
アセトアミノフェン、セレコキシブなど、一部の薬剤は比較的安全と考えられています。
6.いわつき三楽クリニックでの診療
気管支サーモプラスティをのぞいた、気管支喘息の診療の全般に対応いたします。
入院を必要としない、中程度の喘息発作まで対処可能です。
入院が必要な重症の喘息発作の患者さまは、呼吸器専門医が在籍する連携医療機関にご紹介させていただきます。